春まだ浅いその日、自分の内面を整理する言葉がちょいほしくなり、短編集が読みたくなって、帰宅途中に国道の陸橋そばにある書店に立ち寄りました。「天頂より少し下って」(川上弘美、小学館文庫)。
店内のタリーズコーヒーに入り、本日のコーヒー・ショートサイズをテーブルに置き、読み始めました。
ここは最近のお気に入りスポット。そして川上さん、私とほぼ同年代。相変わらず、....うまいなあと、心の中で唸ってしまいました。
初期の作品を読んだころ、不思議感が妙に刺さりました。絵画で言うなら半具象の魅力。一方で、具象作品を書いたときにしっかりしたデッサン力のある作家さんなのだろうかと、やや意地悪な思いもありました。
もちろんそんな危惧は失礼でしかないと、すぐにたくさんの多彩な作品が証明してくれたのですが。
川上ワールドはやはり女性の感性そのもの。ところが作品をかたちづくる言葉は、さらさらした砂のように乾いた清潔感があって、どこを取ってもべたべたしていない。私にとってはその質感こそ、川上さんの最大の魅力かもしれません。
さて、「天頂より少し下って」。どんな本も何の解決ももたらしてくれないけれど、少しだけエネルギーをかき立ててくれる。そんな小説が、つまりいい作品ですね。
**********************